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終点ではなくて
終点ではなくて_a0008075_2116088.jpg2004/12/19 新宿プラザ


「Terminal, The」(2004米)
(ターミナル)

監督:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:サーシャ・ガヴァシ、ジェフ・ナサンソン
出演:トム・ハンクス、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、スタンリー・トゥッチ、チー・マクブライド、ディエゴ・ルナ


実物大や其れに近いセットを組むのは最近では別に目新しくもないことですが、空港のターミナルサイズのものを丸ごとセットとして組んでしまうのはなかなか無いのではと。まぁ恐らく今のご時世、いろんな意味で空港は"重要な場所"であるわけですから、スピルバーグと言えどもそんな場所をおいそれと貸切るなんて事はできないということなのでしょう。

私のあてにならない記憶では、最初の頃の予告編は9・11と絡めていたような気がしたのですが、やはり記憶違いか勝手な思い込みだったのでしょうか。しかしながら、この作品が製作された時期にそれの空港への影響がほとんど描かれていないというのは、やはり作品として意図なのではないかと。

空港で離発着を繰り返す飛行機とそれに乗り旅立つ人々。ターミナルは終点でもあるが起点でもある。全く同様に、彼の周囲にいる、人種や年や性別や経歴が全く異なる人々も、彼を"起点"として新たな人生や日常に、あるいはある意味非情な現実へと旅立っていくわけです。彼そのものは通過点であり、終点ではないので、全ての人が彼を通り過ぎて行ってしまうのだけれども、そこでは皆何か"重要なもの"を得て旅立っていくわけです。其れは人によって様々なものだったけれども、いずれも忘れたくない"重要なもの"だったなと。ここではたと、空港と言うものを人が夢想していた時代の空港の"本来の姿"とは、そういった"思い"、つまり人種や国境を超えた交流や、お互いの思いやりや、理解、助け合い、そして自由。そういった"重要なもの"を成し得るための存在であって、間違っても今のように不穏分子を排除したりするためだけの存在ではなかったのではないかと思い当たる。そしてこの空港の"本来の姿"を実現するのは技術の進歩や、法や規則の整備ではなく、"人の思い"であると確信させるように、最後に彼も周囲の人々のそういった"思い"に助けられ、彼の"思い"を満たすわけです。つまり彼が待っていたのは事象としては国の復権ではありましたが、より本質的には人の心の"重要なもの"への回帰だったのではと。

こう考えてみると、作品とは別の意味で"重要な場所"となってしまっている現実の空港が撮影場所に適さないのは至極当たり前で、然るに"本当の姿"としてのセットを建設せざるを得なかったと、否、最初からそのような正反対の属性を持った実際の空港で撮ろうとは思っていなかったことでしょう。ではなぜCGやあるいは必要最低限の小さなセットを小手先の技術でごまかしながら使わなかったのかと言うと、人の手で"本来の姿"を作ることにこそ、意義があると考えたからではないかと勝手に思っております。

いずれにしても、この作品で描かれた空港や人の姿こそ"本来の姿"であり、そしてまた目指すべきものであってほしいなと、そう思いました。


時事ネタを取り入れつつ、映画としての面白さも残し、かつ、芯に確かなものを持つ。毎回ながらスピルバーグはさすがだなぁと思いつつ席を後に。外に出ると少し雨のぱらついていた師走の新宿。心なしか暖かく感じたのはこの作品のおかげだったのかもしれません。
by nothing_but_movie | 2004-12-21 21:36 | Movie(T)
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