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神の業と人の業
神の業と人の業_a0008075_16503695.jpg2005/5/21,22ユーロスペース


「DEKALOG」(「デカローグ」)
(1988ポーランド)


監督:クシシュトフ・キェシロフスキ
脚本:クシシュトフ・キェシロフスキ/クシシュトフ・ピエシェヴィッチ
出演:クリスティナ・ヤンダ/ダニエル・オルブリフスキー/ズビグニエフ・ザマホフスキー


敬愛するキューブリックがそう言ったのであれば。そんな思いで昨年アップリンクで購入した「デカローグ」のDVD。1、2話で圧倒され、3、4話で考えさせられ、5、6で引き込まれ、7、8話で悲観にくれ、9、10話で希望を見つける、そんな感じの連作。もともとはポーランドのテレビ映画として製作されその後世界で公開され、キューブリックをはじめさまざまな人へ影響を与えた名作。いつかは見れると思っていましたが、まさかこんなにも早くスクリーンで見れるとは思ってもいませんでした。

と、言いつつも、恐れ多くも10話をそれぞれ短評の形でレビューしたりして。と言うのも1時間と言う枠に収めたがため各話の密度、完成度はともに非常に高く、それでいて不足が無いわけですから、正直圧倒されて言葉も出ないのですよ。神が創ったのがバイブルであるならば、これは人が作ったそれ。神業的な完成度を誇るこの作品はある意味財産として私の中に残ることでしょう。



第1話 「ある運命に関する物語」
「Thou shalt have no other gods before Me」
(あなたは私の他になにものをも神としてはならない)

科学信仰による神の存在の否定による、逆説的な神の肯定。


第2話 「ある選択に関する物語」
「Thou shalt not take the name of the Lord thy God in vain」
(あなたはあなたの神、主の名をみだりに唱えてはならない)

コップの淀んだ液体から這い出す蜂を描いたシーンから続く一連のシークエンスは特に見事。因果応報、神への信頼。


第3話 「あるクリスマス・イブに関する物語」
「Honor the Sabbath」
(安息日を覚えてこれを聖とせよ)

孤独を感じる夜に、温もりを求めるための些細な嘘と、最後に訪れる真実の告白。人間の弱さと寛大さ。これらのコントラストの妙。


第4話 「ある父と娘に関する物語」
「Honor thy father and mother」
(あなたの父と母を敬え)

母の不在と、娘が持つ父への絶対的な信頼による幼いがゆえの同調と父の迷いによるエレクトラ・コンプレックスの再現。エレクトラ・コンプレックスは一般に"娘"が持つものだが、作品中の父の真意、娘の思いを深読みするとキシェロフスキーはその定説に異を唱えているように見える。非常に興味深い。


第5話 「ある殺人に関する物語」
「Thou shalt not kill」
(あなたはなにものをも殺してはならない)

人が抱えた矛盾。原罪以上に罪深く愚かしい人への警鐘。スコセッシの「タクシードライバー」、フォントリアーの「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を想起する。


第6話 「ある愛に関する物語」
「Thou shalt not commit adultery」
(あなたは姦淫してはならない)

大人の世界への憧れと恐れを覗きという行為にたとえる。落ち着きつつも、短い青春。少年から青年への成長。


第7話 「ある告白に関する物語」
「Thou shalt not steal」
(あなたは盗みをしてはならない)

一時的な欲を満たしたがための、永遠の後悔と不幸。利己的な人間の一面を無垢な子供を対照として描く。


第8話 「ある過去に関する物語」
「Thou shalt not bear false witness」
(あなたは隣人について、偽証してはならない)

贖罪的な日常生活の裏にある、罪悪感から生まれる潜在的な脅迫観念を描く。


第9話 「ある孤独に関する物語」
「Thou shalt not covet thy neighbor's wife」
(あなたは他人の妻を取ってはならない)

劣等感とそれに抵抗するかのように現れる一種の退行。些細な劣等感からくる捻じれた愛情と、一時の気の迷い、別れ、邂逅を描く。


第10話 「ある希望に関する物語」
「Thou shalt not covet thy neighbor's goods」
(あなたは隣人の家をむさぼってはならない)

歌が全てを物語る。些細なものへの愛。全ての愚かしさの肯定。人間の愚かしくも愛すべき日常。
by nothing_but_movie | 2005-05-25 16:54 | Movie(D)
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