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親子は血縁、男女は他人
親子は血縁、男女は他人_a0008075_2021527.jpg2005/6/4 VIRGIN TOHO CINEMAS 六本木ヒルズ


「Forgotten, The」(「フォーガットン」)
(2004米)


監督:ジョセフ・ルーベン
出演:ジュリアン・ムーア、ドミニク・ウェスト、ゲイリー・シニーズ、アルフレ・ウッダード、ライナス・ローチ



こんな映画を大真面目に擁護しても仕方が無いとは思うのですが、まぁアレです。「シックスセンスを超える衝撃」の"衝撃"とはすなわち物理的な"衝撃"であり、"笑劇"でもあります。間違ってもDrasticではありません。これが分からず大真面目に見てしまえば、それはもう駄作と泣くしかないのですが、分かっていればそれなりに見れてしまうのが不思議ですね。

最初のほうはそれなりにしっかり作られていて、冒頭の俯瞰なんかは正に全編通しての伏線そのもの。まぁそのシーンと予告編の知識だけでオチが分かってしまったのが残念ではありましたが、しかし冒頭のそれでオチが分かっていたからこそ"それ系"の作品として楽しめたというのもあるでしょう。また秀逸なのは車の衝突シーン。絶妙な"タメ"が視覚的に見れ、そのお陰で実際の事故の感覚を髣髴とさせる、今までありそうでなかったよい緊張感を持ったシーンに仕上がっていたと思います。


それにしてもこの作品で出てくる"彼等"は感情的に過ぎると言うのが私の見解。それなりに秘密裏に話を進めていたにも関わらず、都合の悪い人間が出てきたりするといきなりあんな目立つ手段に訴えて出るなんてアレとしかいいようがありません。"彼等"の存在を知っているのは一部の人間に限られているようですからもし目撃者がいれば当然記憶を操作しているわけで、そんな手間をかけるならもっと穏便な手段で良いのではと思ってしまいます。そんなわけで、"彼等"にとっては非常に非合理的で不必要なこの感情的な手段は、むしろ製作現場の感情を表したものではと勘ぐっています。つまり、最初に大風呂敷を広げすぎて、「こんなのつくれるかッ。」とちゃぶ台をひっくり返しているようなそんなニュアンスが見え隠れします。向こうでそれなりの映画を作るときには確か最初にプロモーション用の短い見せ場のダイジェストみたいなのを作って、それでプロデューサーを募るみたいな感じだったと思いますから、とりあえず予告編のような思わせぶりなプロモを作ってプロデューサーを見つけて、製作を始めたものの、実はオチは良く考えていませんでしたってことで、ちゃぶ台返しでめちゃくちゃ。そんな想像が私の中で渦巻いています。シナリオも後半になるほどグダグダですし当たらずとも遠からずでは。

しかしネタ的にはなかなかタイムリーな感じがします。確か先週だと思いますが、オキシトシンが人を信用させる物質として注目を集めたと思います。オキシトシンと言えば妊娠や出産、育児など"親子の絆"を作るのに重要と目されてきたホルモンの1つで、今回の映画のテーマとも当たらずとも遠からず。しかし人間が既に物質を特定しつつあるのに"彼等"があんな物理的、直接的な動物実験みたいなことするはずもなく、そしてまた記憶を操作できるならもう少しまともな実験ができるのではとも。また、写真やアルバム、ビデオは完璧に操作するくせに壁紙は上から被せるだけというちぐはぐさ。案の定そんな実りが無く、原始的で粗だらけの実験をした"彼等"の代表である"彼"はその役務からおろされるわけですが、そのシーンは人間の世界の"クビ"もしくは"左遷"あるいは"飛ばされる"という言葉が想起させるイメージと見事に合致し、これが実際にこれ程のSFXで金をかけてビジュアル化されたのは初めてだろうなと、あらぬ方向に感心しつつ、人間も"彼等"も社会の仕組みは似たようなものなのだなと、その非情な社会の進化の普遍性に哀愁を感じたりして。

真面目な視点で一つだけ擁護しておくと、これはある意味中絶についても意見を述べた作品とも言えるかもしれません。いつからが生命であり、いつから子として認識され、絆ができるのか。それを説いたのがあの最後のシーンなのかもしれません。が、それが彼女一人しか維持できなかったとは、なんとも非情な設定です。また、じゃあ男のほうはどうして思い出せたんでしょうか。ちょうどそういったカップルが隣にいてもしやコレかと突っ込みたくなってしまいました。あ、擁護になっていませんね。


どんな視点からも後半はなかなか完璧な擁護はできず、総じて非情にレトロSFな雰囲気をたたえるこの作品は、「X-Files」よりも前に作られていたらもう少しは流行ったかもなと、そんなことを思いつつも、親と子の絆は消そうとしてもそう簡単には消せないのに、男と女のそれはいとも簡単に消え、そして記憶を維持しているほうも簡単にそれを諦め、さらにそれをいいことに、違う男を選ぶこともあるとでも言いたげな終わり方をするこの作品を、尊敬とまでは言わないまでも、良くこんなもの撮ったなと感心せずにはおれません。
by nothing_but_movie | 2005-06-06 18:04 | Movie(F)
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