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蝙蝠は必死に飛ぶ
蝙蝠は必死に飛ぶ_a0008075_2342136.jpg2005/6/18 VIRGIN TOHO CINEMAS 六本木ヒルズ




「Batman Begins」(「バットマン・ビギンズ」)
(2005アメリカ)



監督:クリストファー・ノーラン
脚本:クリストファー・ノーラン、デヴィッド・S・ゴイヤー
出演:クリスチャン・ベイル 、マイケル・ケイン、リーアム・ニーソン、モーガン・フリーマン、ゲイリー・オールドマン


お金が普通以上にあるというだけで後は普通のおじさんな男があんな格好して子悪党と戦う様はやはりなんと言ってもナンセンス。有り余る資金力と技術力を活用して、もっと他の方法を模索すればといつも言いたくなってしまったりもするのですが、まぁそうしないところが彼の魅力。そしてまた、彼が他のアメコミヒーローと異なるのは何の特殊能力も持ち得ず、武器と体術だけで戦うヒーローとしてはなんとも地味な点ですが、それもやはり彼の魅力なのです。そんなわけで、彼を語るときに私の口をついて出るのは"弱格好良い"あるいは"ダサ格好良い"そんな言葉だったりします。

もしアクションを期待している人がいたら、この作品の中心にすえられているものは別のものですから見ないほうが良いように思いますね。そもそもただのおじさんなのだから想像すればわかるように格闘シーンなんかは地味なことこの上ない。それを意識してか、それなりに見れるシーンにはなっていますが、意図的にわかりにくく撮っているように感じました。ただ「フォロウィング」「メメント」「インソムニア」でも見られたような印象的な画は随所に見られます。


悪の組織に育てられ、それに反旗を翻し、自分の存在に悩みつつもそれらと戦う彼の姿は、大昔に古本屋で立ち読みした「仮面ライダー」のオリジナルに被る部分があります。しかし仮面ライダーと違うのは彼の場合は表情の一部がその仮面から見えるところ。そのおかげでキャラクターの全体像はクールに仕上げられていなながら、時折"必死さ"が垣間見え彼が生身の人間であることを意識させる。一般のヒーローが人間とヒーローの姿を完全に分離して、つまり生身の部分が無いのに対して彼の場合はそうではなく、そうすることで彼は常に人間を感じさせ、それは間接的に常に人間としての"苦悩"がそこにあることを感じさせる。これまでの作品での彼の描かれ方は時折見せるそんな人間らしい姿とは裏腹に孤独のヒーローそのもの。一般の人とはほとんど言葉を交わさず、どこからともなく現れ、どこともなく消えていく。近寄りがたく"正義のヒーロー"には似つかわしくない影を持ったミステリアスな存在として描かれており、それはギャップを感じさせるとともに、彼の孤独さがことのほか強調されていました。

今回の作品のこれまでとの大きな違いは、積極的に彼の理解者を描いて見せたこと。そしてそれと同時に彼の根源とも言える影の部分もクローズアップし、モノトーンで平面的でミステリアスだった彼のイメージを立体的に彩を与え、より人間らしく描いた点ですね。これにより彼が今まで以上に人間くさくなったのはもちろんのこと、影を感じさせながらも心を開いた正義のヒーローらしい一面を持ち、それでいながら影こそ彼の彼足る所以であるということを明確に示しました。今までありそうでなかったアプローチですね。


常にバタバタと必死に羽を動かしながら何とか飛ぶコウモリの姿は、時にはあっさり負けたり格好の悪い失敗をしながらも、必死に戦って何とか勝つ、そんな彼の姿に良く被ります。コミカルな部分や、シリーズ中では使い古されたようなギャグを織り交ぜつつ、豪華なキャストでBatmanの魅力を余すところなく描ききったこの作品は個人的には非常に良くできていると思いました。
by nothing_but_movie | 2005-06-21 23:10 | Movie(B)
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