2004年 11月 26日 ( 1 )
ゲバラの亡霊に
2004/11/06 恵比寿ガーデンシネマ



「Motorcycle Diaries, The」
(2003年英/米)

監督:ウォルター・サレス
製作総指揮:ロバート・レッドフォード
原作:エルネスト・チェ・ゲバラ 、アルベルト・グラナード
脚本:ホセ・リベーラ
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル 、ロドリゴ・デ・ラ・セルナ


この作品の最初と最後には以下のようなメッセージが出る。

「これは偉業の物語ではない。
 人生のある地点で、同じ方向を目指した2人の友情の物語だ」


映画のジャンルで言うなら所謂「ロードムービー」に分類される。ロードムービーの一般的な主な構成要素には「旅の風景/情景」「人間性の成長」「新しい発見」があると考えている。まず映像については、全般的にきれいでしたし、目を引くように美しいシーンは少なくありませんでした。ここら辺はさすがという感じですが絶賛するほどのものではない。
次に「人間性の成長」。医学生のボンボンが無鉄砲な友人と、無計画な貧乏旅行に出て、貧しい生活を強いられている人々やハンセン病で隔離されている人々の現実を目の当たりにし、共鳴し、自分がやるべきことを「発見」していく過程が描かれている。自分が生きてきた世界以外を「発見」して、それをきっかけに精神的な「成長」が描かれ、最後にその成長と将来の偉業を象徴する河を泳意で渡るシーンで旅は締めくくられる。このシーンは、うまく使えば自分の危険を顧みず、誰もやったことのない偉業を行った彼を、わかりやすく象徴的に表すための効果的なシーンかも知れませんが、これをまともに意図したように見せるには旅の過程で見せた彼の未成熟な面があまりにも邪魔をし、この行動の主な動機として描かれたリストラ夫婦と病人集落はあまりに浅く軽薄だ。つまりこのシーンは突飛過ぎる。
総じて、ロードムービーとしては中途半端感と完成度の低さが全体に漂う仕上がりとなっているというしかない。ではこんな映画がなぜ評価されているのか。


もし主人公が"彼"だとしたらどうか。

"彼"は裕福な家の育ちで何不自由なく育ちましたが、ある日旅に出ました。その旅で"彼"は貧困や病に喘ぐ人々の悲しい姿を見て、何とか救いたいと考えました。"彼"はこれをきっかけに政治活動をはじめ、努力や運などにも恵まれて若き日に志した地位に上り詰める事ができました。
そんなある日"彼"は若い頃に見たのと同じように貧困に喘ぐ人々を見つけました。"彼"は政治を変えるべきだと考えました。そこでその政府の転覆を試み、様々な手段を圧倒的な支持と力のもとに講じ、見事それを達成、悪政から人々を解放しました。

勘の良い方はわかったと思いますが、置き換えた"彼"とは先日再選を果たした人です。"彼"がこのような旅をしたかどうかは知りませんし、恐らくしていないと思いますが、仮に同じ旅をして同じ人々を見て同じ行動をしたとして、それを映画にしても誰も感動なんかしないと思うんですよ。つまり、今の"彼"の評価や評判がそのまま映画にも反映されるはずです。(※1)特に河を泳いで渡るシーンなんかは「捏造と欺瞞に満ちている」とムーアあたりが騒ぐはずです。

つまり、ロードムービーとして中途半端なこの映画がまともに成立し、評価されているのは、彼が主人公だからだ。彼が偉業を成し遂げ、評価されているという背景があるからこそ映画も評価されているのだ。つまり、この評価は映画のそれではなく、彼のそれだ。偉業のきっかけとなったと思ってみるからこそ良い旅に見え、その映画だから良く思え、突飛過ぎる演出も容認してしうのだ。


「これは偉業の物語ではない。
 人生のある地点で、同じ方向を目指した2人の友情の物語だ」

本当に偉業ではないと思って河を渡るシーンが見れましたか。2人が目指した方向性が医者や政治家ではなくなぜ革命家なのか映画から読み取れましたか。2人から映画になるほどの友情が見えましたか。彼らが目にした風景や情景が彼の顔以上に印象に残っていますか。あなたは写真展で見たり読んだりした彼の姿についてではなく、また雑誌で読んだ彼の偉業についてでも、テレビやネットで見た彼の特集でもなく、純粋にこの作品について何か語れますか。ゲバラの亡霊に惑わされていませんか。

映画自体を評価せずにその題材の人物や、時代が良いという理由で、実際は駄作や凡作が良いと評価されることは別にこの作品に限ったことではない。(「華氏911」もある意味こういうタイプですね。「華氏911」の内容覚えてますか。その当時は騒いだかも知れませんが、そろそろ内容を忘れてたり、鼻で笑ってたりしてませんか。)そしてそういう映画の売り方もありだとも思いますが、私は映画館には"映画"を見に行き、"映画"で驚き、発見し、感動し、楽しみたい。そしてそういう映画こそが"良い映画"と評価されてほしいと考えているし、評価したい。




※1:もし主人公を"彼"に置き換えそれでも感動すると言うなら、"彼"が主人公である意味が全く無いといえる。作品としての面白さは証明されるのかもしれないが、主人公を描ききっているとは言いにくく、もったいない失敗作であることに代わりない。これは主人公が彼でも同じ事が言える。
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by nothing_but_movie | 2004-11-26 23:59 | Movie(M)