2005年 06月 03日 ( 1 )
これは時代劇あるいはゾンビ映画だ
a0008075_030816.jpg2005/05/29シブヤ・シネマ・ソサエティ


「Le Convoyeur」(「ブルー・レクイエム」)
(2004フランス)


監督:ニコラ・ブークリエフ
脚本:ニコラ・ブークリエフ、エリック・ベナール
出演:アルベール・デュポンテル、ジャン・デュジャルダン、フランソワ・ベルレアン、クロード・ペロン、ジュリアン・ボワッスリエ


些細なことではありましたがいくつか作品中で始まりが描かれていないのに終わりだけ描かれているような、あるいはその逆に描かれていたごくありふれた日常的な出来事があり、なんとも気持ちの悪い描写だなとおもっていたら、壁の写真であったり、弾丸への細工だったりと、つまり彼の復讐にかける意気込みのようなものは、どこで何の役に立ったかもよくわからないにもかかわらずしっかり描かれていて、これはつまり彼の心理あるいは視野、つまり復讐のことしか考えておらず他のものは目に入らない状況を映画的に表現したものなのでしょう。

来るべき日に向けて障害と傷跡の残る体の鍛錬を欠かさず、日々寡黙に吹き溜まりのような職場に赴きその本心をひた隠し、がむしゃらに手がかりを追い、自ら死地に赴く彼の背中に"侍を見た"と言いたいところなのですが、なんといっても元はただのサラリーマン。復讐のための技術等もちろん無く、使い慣れない銃を手にする様はさながら、時代劇でありがちな親の敵に無謀にも向かっていく子供のそれ。劇中でこのちぐはぐな姿は恐らくは外装と中身がつりあっていないあの"車"に例えられているのです。

まぁしかし、クライマックスで見せる彼の執念は、時代劇の侍のそれにも見え無くもないのですが、弾をバンバンと喰らいながらも、ムクリと立ち上がり敵に向かっていく様はまさにゾンビか死霊のそれ。意外と小綺麗に死ぬ侍にはあまり見えず、間違っても普通のサラリーマンでは無いなぁと淡々と思うわけです。そしてこのゾンビあるいは死霊もまた、今ではほとんど見られない、つまりは普通なら廃車になっているであろうあの"車"に例えられているのです。


ありがちな設定、ありがちな展開、ありがちな終わりで、目新しいものは何も無いのですが、気持ちの悪い映画を見てしまったなという思いになるのがこの作品。駄作と切り捨てるにはあまりに興味深い印象を残すこの作品を、良く分からないからといって"フィルムノワール"なんて言葉でごまかしてほしくないですね。これは間違っても"フィルムノワール"などではなく、"侍のゾンビ"あるいは"ゾンビの侍"つまりは少し前の日本侍ブームと最近のホラーブームを足し、さらにそこにフランス映画のあの落ち着きと寡黙な雰囲気を併せたフランス映画の冒険的ともいえる新境地なのです。この視点を持ってみればいかにこの作品がそれらの作品に共通するプロットを持っているか、いかに冒険的であるかが見えるはずです。この作品を久しくネタ切れのハリウッドがほしがっているということも、またあの遊びの効いたエンドクレジットも"フィルムノワール"だからでは説明になりませんがこれほどの冒険をし、新しい方向性を示した映画だとみれば非常に分かりやすい話なのですよ。


そして彼は彼の象徴であるあの"車"で仇討ちの報告をしに行く、否、自分の墓場に戻っていく、否、息子のもとへと戻って行くのです。めでたしめでたし。いや面白い映画を撮ったものです。
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by nothing_but_movie | 2005-06-03 00:40 | Movie(L)